没コラムお蔵出し『イーオン・フラックス』のシャーリーズ・セロン――改訂版初出『V.A』2006年9月号

  • 2013.04.27

正直、本編がアレだったので、「褒めるところがなければ照明を褒める」で知られる故・淀川長治先生にならって下記のように書いたところ、「メロン」部分をこき落ろしすぎであるということでNGに(このあと表現をマイルドに書き変えてOKが出ました)。

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高級メロンはビニール袋でなく桐箱に入っている。主役は当然メロンだが、ときに桐箱の繊細な木目を愛でるのも、粋人じみていて気分がいい。

本作の舞台は2415年、人類最後の都市ブレーニャ。反政府組織の女戦士イーオン・フラックスに支配者暗殺の命が下るが、実は彼女も知らない大きな秘密が隠されていた――。こんな直球SF世界観の中、イーオン演じるシャーリーズ・セロンがセクシー新体操系VFXアクションで魅せまくる! というのが「メロン」の部分。じゃあ「桐箱」は何かと言えば、都市ブレーニャのプロダクションデザインだ。

プロダクションデザインとは、簡単に言えばセットを作る仕事のことだが、実はこのコダワリが半端じゃない。現代建築家の作品を思わせるクールモダンな建築物の数々は、あらゆるショットで幾何学的な様式美を備え、髪型や小道具のデザインに表れたジャポニズムと感動的な調和を果たす。結果、普通のSFアクション映画では絶望的に期待できないビジュアル面の「品格」が、本作に限っては奇跡的に備わっているのだ。

一口のメロンは至福を運んで来るが、食べれば減るし、時間が経てば腐る。しかし逸品の桐箱には、時代を経ても朽ちることのない普遍性がある。だから、映画製作におけるプロダクションデザインのことを、日本では敬意を込めて「美術」と呼ぶのだ。(了)

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